『大炊介始末』


主殿 若殿にそういう資質があるのではあるまいか?
兵衛 それもあるかもしれません。しかし、それだけとは思えません。私は一日でも早く事実を突き止めたいのです。
主殿 わかった。
兵衛 痛むか?
瀬木 痛みもひどいのですが、熱がなかなかさがりません。
兵衛 ゆっくりでよい詳しく話してくれ。
瀬木 斬られたのはわたしだけではありません。他にも三人斬られています。
兵衛 えっ!!
こさぶ、こさぶ、こさぶ・・・・。
兵衛 机の上に手紙がある。おれに万一のことがあったら江戸の母上に届けてくれ。
十衛門 今回は私もお供いたします。
兵衛 それは駄目だ。これは上意だ。
十衛門 お願いでございます。
兵衛 見苦しいぞ、十衛。お前の気持ちはわかっている。お前はここにいて事の成り行きを把握し母上に報告してくれ。それも重要な仕事だ。頼んだぞ。
十衛門 ・・・。
大炊介 こさぶ、さあやれ。
兵衛 ご学友にめされましたよしみをもってお願い申し上げます。いかなる仔細がございますのか、その御心内をお聞かせください。
大炊介 貴様はおれの命を取りに来たそうだろう。それならその役目を果たせ。
兵衛 いや、是非ともお聞かせを願います。
大炊介 貴様、臆したな。貴様が手を出さぬなら俺は自決するまでだ。
兵衛 御側近のものをお供にですか?
大炊介 なに、そばのものをどうすると?
兵衛 お供にあそばすかと申し上げたのです。
大炊介 今だ、兵衛、役目を果たせ!!
兵衛 昔は十五人のご学友の中で、力でも技でも学問でも武術でも若殿に及ぶものはなかった。暖かく情け深く、思いやりのあるご性質に家中全体が希望をよせやがては御家の中興になられるものと信じあげていましたのに。いかなる理由にかにわかにご行跡がみだれ、ついにはかような情けないことになってしまわれた。この私にさえ組しかれるほど御体力も衰えておしまいなされた。
大炊介 貴様、それで勝ったつもりか。
大炊介 こさぶ、動くな。短刀を動かすな。短刀を抜いてはならんぞ。
兵衛 ・・・。
大炊介 騒ぐな、騒いではならん!!
大炊介 傷は腸まで届いているか?よほど深いか?
医者 腸は大丈夫のようです。このまま動かさないで下さい。血の管が開き、出血を起こします。
大炊介 わかった。
大炊介 兵衛、お前はお父上のお使者だ、よく見ていてくれ。
兵衛 若殿。
とめ ・・・・・。